1. 忘れられないオンライン交流会
2021年、行政書士として独立して間もない私は、海外との接点を増やす目的で某オンラインビジネス交流会に加入しました。
行政書士という立場上、在留資格や国際取引など、海外との関わりは将来の業務の幅を広げる重要な要素になると考えていたのです。
その頃、アジア各国と日本の参加者がつながるZOOMイベントに参加する機会がありました。
海外のビジネス事情を直接聞ける貴重な場。ワクワクしながら画面の前に座っていた私に、思いもよらないテーマが飛び込んできました。
タイの参加者や、それに関心を示す日本人メンバーが口々にこう話すのです。
「タイが大麻を合法化するから、これから大きなビジネスチャンスがある」
「昨日は大麻入りビールを飲んだよ」
その瞬間、胸の奥で何かがざわつきました。
私は薬物に関しては、日本の厳格な法制度と価値観を当然のものとして生きてきました。
ビジネスの場で、軽い冗談のように薬物を話題にする空気に、正直虫唾が走る思いがしたのです。
2. タイの合法化後に起きた現実
あれから数年。タイでは2022年に大麻が事実上合法化され、観光や農業、飲食業界が一気に盛り上がりました。
しかし、その裏では次のような問題が噴出します。
- 未成年や若者の利用増加
大麻入り飲料や菓子が容易に手に入り、健康被害や依存リスクが拡大。 - 国際的な密輸問題
観光客が国外へ大麻製品を持ち出すケースが急増し、英国などで外交的な摩擦に。 - 小規模事業者の淘汰
店舗乱立による価格競争で収益が悪化し、廃業する店が続出。 - 治安と公共の秩序の悪化
観光地の一部が“無法地帯”化し、軽犯罪やトラブルが増加。
そして2025年6月、タイ政府はついに大麻を「医療用限定」に戻す再規制を発表しました。
一時は経済効果に沸いた産業が、制度の揺り戻しによって大きな転換点を迎えています。
3. あの時の違和感の正体
某オンラインビジネス交流会で感じた違和感は、単なる感情的反応ではなかったのだと思います。
ビジネスの機会は確かに大切ですが、その基盤にあるのは価値観や倫理観の共有です。
自分がリスクや倫理面で到底受け入れられない分野に関して、熱を帯びて語る人々との距離感は、後々の信頼関係にも影響します。
タイの事例は、規制緩和が経済を活性化させる一方で、監督体制や社会的影響への配慮を欠けば、短期間で社会問題化することを証明しました。
あのとき直感的に感じた「危うさ」は、実際の社会の動きと重なっていたのです。
4. 日本人として考えるべきこと
日本では大麻取締法があり、所持や使用は厳罰の対象です。
たとえ海外で合法でも、日本人が利用すれば帰国後の法的リスクや社会的信用の失墜は免れません。
また、日本社会は薬物に対する倫理観が非常に厳しく、その意識の高さが治安の良さや安心感につながっています。
海外の「合法化」の波に安易に乗るのではなく、その国の文化・法制度・社会背景を十分に理解した上で、自分の立場と価値観を明確にしておく必要があります。
5. まとめ
この出来事は、行政書士として独立したばかりの頃に経験した「価値観の境界線」を改めて確認するきっかけでした。
タイの大麻合法化とその後の混乱は、経済と倫理のバランスの難しさを浮き彫りにしています。
ビジネスの世界では、新しいチャンスに目を輝かせることも大切です。
しかし同時に、そのチャンスがもたらす社会的影響や、自分の信念との整合性を見極める目も持ち続けたい――あの日の違和感は、今の私にそう教えてくれています。
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